アケロンの事例から考える、ミュージックビデオ制作・ディレクション依存・新規案件獲得の課題

映像制作会社の破産に見る、小規模クリエイティブ事業の案件獲得と収益化の難しさ

― アケロンの事例から考える、ミュージックビデオ制作・ディレクション依存・新規案件獲得の課題 ―

「東京」 アケロン(株) (資本金10万円、目黒区青葉台1-30-8、代表宮腰達也氏)は、7月1日に東京地裁より破産手続き開始決定を受けた。

破産管財人には、四十山千代子弁護士(アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業、千代田区大手町1-1-1、電話03-6775-1859)が選任されている。債権届け出期間は7月29日までで、財産状況報告集会期日は10月2日午前10時。

当社は、2014年(平成26年)9月に設立された。主に音楽アーティストのプロモーション映像やミュージックビデオなどの映像制作を手がけていた。代表を中心としたディレクションを強みに、過去にはテレビCMなどを制作した実績を有していた。

しかし、小規模事業者の域を脱せず新規案件の獲得に難航し、収益確保に苦戦する展開が続き、資金繰りがひっ迫。2026年6月中旬には事業を停止していた。

負債は債権者約30名に対し約2000万円。

帝国DBより

1. 経営悪化の背景

1-1. 音楽アーティスト向け映像制作を中心とした事業

同社は、主に音楽アーティストのプロモーション映像やミュージックビデオなどの映像制作を手がけていたとされています。

音楽アーティストにとって、映像は楽曲や世界観を伝える重要な手段です。ミュージックビデオ、プロモーション映像、ライブ映像、SNS向けショート動画などは、アーティスト活動に欠かせないものになっています。

特に近年は、YouTube、TikTok、Instagram、XなどのSNSを通じて、音楽と映像が一体となって広がる時代です。

その意味では、映像制作そのものには一定の需要がある分野だったと考えられます。

一方で、映像制作業は参入障壁が下がっている分野でもあります。

撮影機材や編集ソフトの低価格化、フリーランスクリエイターの増加、SNS動画制作の普及により、小規模な制作会社や個人制作者との競争が激しくなっています。

そのため、映像制作の需要があっても、継続的に十分な単価で案件を獲得することは簡単ではなかったのではないでしょうか。

1-2. 代表者を中心としたディレクション力

同社は、代表を中心としたディレクションを強みにしていたとされています。

映像制作において、ディレクション力は非常に重要です。

単に撮影や編集を行うだけではなく、企画、構成、演出、撮影現場の進行、アーティストやクライアントとの調整、完成イメージの統一など、作品全体の品質を左右します。

代表者の感性や経験、企画力、現場判断が評価されていた可能性があります。

また、過去にはテレビCMなどを制作した実績も有していたとされています。

これは、一定の制作力や信用があったことを示しているように思われます。

しかし、代表者の個人力に依存する事業は、案件獲得や制作進行が特定人物に集中しやすくなります。

代表者が営業、企画、制作、顧客対応、資金繰りまで担っていた場合、事業を大きく広げることは難しくなります。

1-3. 小規模事業者から脱しきれなかった課題

同社は、小規模事業者の域を脱せず、新規案件の獲得に難航していたとされています。

映像制作業は、実績が次の案件につながりやすい一方で、案件ごとの波が大きい業種です。

継続契約や月額契約が少なく、単発案件が中心になると、売上は不安定になります。

また、音楽アーティスト向けの映像制作は、予算規模にも幅があります。

メジャーアーティストや大手レーベル案件であれば一定の制作費が見込める可能性がありますが、インディーズや小規模案件では、予算が限られることも多いと思われます。

制作クオリティを保とうとすると、撮影スタッフ、機材、編集、スタジオ、ロケ地、衣装、美術、CG、カラーグレーディングなどに費用がかかります。

しかし、受注単価が低ければ、手間に見合う利益を残すことは難しくなります。

小規模事業者のままでは、営業力、制作体制、資金力、外注管理の面で限界が出やすかったのではないでしょうか。

1-4. 新規案件獲得の難航

同社は、新規案件の獲得に難航していたとされています。

映像制作会社にとって、新規案件獲得は経営の生命線です。

既存顧客からの継続発注があれば安定しますが、単発の映像制作案件が中心であれば、常に次の案件を獲得し続ける必要があります。

特にミュージックビデオやプロモーション映像は、制作タイミングがアーティストのリリースやキャンペーンに左右されます。

案件の時期が偏れば、売上の波も大きくなります。

また、映像制作会社は、制作実績やクリエイティブの評価だけでなく、価格、納期、提案力、SNS向け展開、撮影体制などでも比較されます。

競合が多いなかで、継続的に新規案件を取るには、明確な得意分野や営業導線が必要だったと思われます。

1-5. 資金繰りのひっ迫

同社は、収益確保に苦戦する展開が続き、資金繰りがひっ迫していたとされています。

負債は債権者約30名に対し約2000万円とされています。

映像制作業では、案件ごとに外注費や制作費が先に発生することがあります。

撮影スタッフ、編集者、カメラマン、スタジオ、機材、ロケ地、音響、照明などの費用が先行し、入金は納品後になる場合もあります。

そのため、売上が不安定な状態で制作費が先行すると、資金繰りが厳しくなります。

また、案件が少ない時期でも、事務所費、機材費、通信費、外注先への支払い、借入返済などは発生します。

新規案件の獲得が難航し、収益確保に苦戦していた場合、資金繰りは徐々に追い込まれていった可能性があります。

2. 経営上の問題点

2-1. 代表者依存の事業構造

同社は、代表を中心としたディレクションを強みにしていたとされています。

これはクリエイティブ事業としては大きな強みです。

しかし、代表者の能力に依存した事業では、案件獲得、企画、制作判断、顧客対応が集中しやすくなります。

代表者が動かなければ案件が進まない状態になると、事業の拡大や組織化は難しくなります。

また、代表者が制作に深く関わるほど、営業や経営管理に使える時間が限られます。

小規模なクリエイティブ会社では、制作力と経営力の両立が大きな課題になるのではないでしょうか。

2-2. 単発案件中心の収益構造

ミュージックビデオやプロモーション映像は、案件単価が高くなることもありますが、継続性が弱い場合もあります。

1件ごとの制作案件に依存すると、受注がある月とない月の差が大きくなります。

固定費や外注費を安定的に支払うには、単発案件だけでなく、継続収益の仕組みが必要になります。

たとえば、SNS動画の月額制作、YouTubeチャンネル運用、ライブ配信支援、広告運用向け動画制作など、継続型のサービスがあれば売上の波を抑えられた可能性があります。

同社の場合、新規案件の獲得に難航したことで、単発案件中心の弱さが表面化したのかもしれません。

2-3. 映像制作市場の競争激化

映像制作市場は、需要が増えている一方で、競争も激しくなっています。

スマートフォンや小型カメラでも高品質な映像が撮れるようになり、編集ソフトや制作ツールも普及しました。

その結果、フリーランス、個人クリエイター、小規模制作会社、広告代理店内製チームなど、競合が増えています。

低価格で短納期の動画制作を求める顧客も増えています。

一方で、クオリティの高い映像を作るには、企画力、演出力、撮影技術、編集力、チーム体制が必要です。

価格競争に巻き込まれると、手間に見合う利益を残しにくくなります。

同社のようにディレクションを強みにする会社ほど、その価値を適正価格で評価してもらう仕組みが必要だったと思われます。

2-4. 音楽業界向け案件の予算変動

音楽アーティスト向けの映像制作は、アーティスト活動やレーベル予算に左右されます。

音楽業界では、CD販売から配信、SNS、ライブ、グッズ、ファンコミュニティへと収益構造が変化しています。

そのなかで、映像制作にかけられる予算も案件ごとに大きく異なる可能性があります。

大きな制作費をかけたミュージックビデオよりも、SNS向けの短尺動画を複数制作する流れもあります。

この変化に対応できなければ、従来型の映像制作だけでは受注が伸びにくくなっていたのではないでしょうか。

2-5. 営業・マーケティング機能の不足

小規模な制作会社では、制作力はあっても、営業やマーケティングに十分な人員を割けないことがあります。

映像制作の実績があっても、それを新規顧客に届ける導線がなければ、案件獲得にはつながりません。

制作事例の発信、SNS運用、検索対策、広告代理店との関係構築、レーベルや事務所への営業、問い合わせ導線の整備などが必要になります。

同社が新規案件の獲得に難航していたとされる点を見ると、制作実績を営業資産として十分に活用しきれなかった可能性もあります。

3. 経営視点からの考察

今回の事例は、小規模なクリエイティブ事業者が、代表者のディレクション力を強みにしながらも、新規案件獲得と収益安定化に苦戦した可能性を示していると考えます。

アケロンは、音楽アーティストのプロモーション映像やミュージックビデオなどを手がけていたとされています。

過去にはテレビCMなどを制作した実績も有していたとの情報があり、制作力やディレクション力には一定の評価があった可能性があります。

しかし、映像制作業は、実績があっても案件が継続的に入るとは限りません。

特に音楽アーティスト向けの映像制作は、リリース時期や予算に左右されやすく、案件の波が大きい分野です。

また、映像制作市場では、フリーランスや小規模制作会社、低価格動画サービスなどの競争が激しくなっています。

高いディレクション力を持っていても、その価値を価格に反映できなければ、収益は安定しません。

同社にとって重要だったのは、作品ごとの制作力だけでなく、継続的に案件を獲得する仕組みや、月額型・運用型のサービスを作ることだったのではないでしょうか。

映像制作は、クリエイティブであると同時に、受注産業でもあります。

良い作品を作る力に加えて、誰に売るのか、どの予算帯を狙うのか、どのジャンルに特化するのか、どう継続収益化するのかを設計する必要があります。

今回の事例は、小規模クリエイティブ会社にとって、制作力と営業力、そして収益モデルの設計が同じくらい重要であることを示しているように思われます。

4. こうすれば良かった可能性がある経営施策

4-1. 音楽映像に特化した営業導線を作る

同社が音楽アーティスト向け映像を得意としていたのであれば、その分野に特化した営業導線をより明確にする必要があったと考えます。

たとえば、次のような顧客層です。

  • 音楽事務所
  • レコード会社
  • インディーズレーベル
  • ライブハウス
  • アーティスト本人
  • 音楽イベント主催者
  • 芸能スクール

これらに向けて、制作実績、料金目安、制作プラン、納期、SNS展開例を分かりやすく提示することで、新規案件につながる可能性があったと思われます。

4-2. 高額MVだけでなく小規模プランを用意する

ミュージックビデオは、予算によって大きく内容が変わります。

高額な本格制作だけを想定すると、予算の限られたアーティストや小規模レーベルからの受注は難しくなります。

そのため、複数の価格帯を用意する方法が考えられます。

  • 低予算のワンカットMV
  • スタジオ撮影のみのプラン
  • ライブ映像編集プラン
  • SNSショート動画セット
  • リリックビデオ制作
  • アーティスト紹介動画
  • クラウドファンディング向け映像

予算に応じた選択肢を用意することで、案件獲得の幅を広げられた可能性があります。

4-3. 継続型の動画運用サービスを作る

単発の映像制作だけでは、売上が不安定になりやすいものです。

安定収益を作るには、月額型や継続型のサービスが重要になります。

たとえば、次のようなサービスです。

  • 月数本のSNS動画制作
  • YouTubeチャンネル運用支援
  • ライブ映像の定期編集
  • アーティストの活動記録映像制作
  • ファンクラブ向け動画制作
  • 楽曲リリースごとの動画パッケージ
  • 広告配信用動画の定期制作

単発案件から継続支援へ移行できれば、売上の波を抑えることができたのではないでしょうか。

4-4. テレビCM実績を法人向け営業に活用する

過去にテレビCMなどを制作した実績があったとされています。

この実績は、音楽分野だけでなく、法人向け映像制作にも活かせた可能性があります。

たとえば、次のような案件です。

  • 企業紹介動画
  • 採用動画
  • 商品紹介動画
  • 店舗プロモーション動画
  • 展示会用動画
  • Web広告用動画
  • 地域企業のブランディング映像

音楽映像だけに依存せず、企業向け動画へ広げることで、案件の安定性を高める余地があったと思われます。

4-5. 制作実績を営業資産として発信する

映像制作会社にとって、制作実績は重要な営業資産です。

しかし、実績があっても、それが見込み客に伝わらなければ案件獲得にはつながりません。

公式サイトやSNSで、制作事例、撮影の裏側、ディレクターの考え方、制作フロー、料金感、顧客の声を発信する必要があったと考えます。

特に小規模制作会社では、代表者の世界観や強みを見える形にすることが重要です。

「どのような映像が得意なのか」「どの予算帯で相談できるのか」「どのような進め方なのか」が分かれば、問い合わせにつながりやすくなります。

4-6. 外注チーム化による制作体制の拡張

小規模事業者のままでは、受けられる案件数や規模に限界があります。

代表者を中心としたディレクション力を活かすなら、撮影、編集、照明、音響、CG、デザインなどを外部パートナーと組み合わせる体制を作る方法もあったと考えます。

固定人件費を増やさず、案件ごとにチームを組めれば、受注できる案件の幅を広げられます。

ただし、そのためには外注先管理、原価管理、品質管理、納期管理が必要になります。

代表者の個人力に依存するだけでなく、再現性のある制作体制を作ることが重要だったのではないでしょうか。

5. 同業・中小企業への示唆

映像制作業は、需要がある一方で、競争が非常に激しい分野です。

特に小規模な制作会社は、制作力だけではなく、営業力、発信力、価格設計、継続収益化が問われます。

良い作品を作れることは大切ですが、それだけで案件が継続的に入るとは限りません。

自社が得意とするジャンルを明確にし、誰に向けて、どの価格帯で、どのような価値を提供するのかを整理する必要があります。

また、単発案件に依存しすぎると、売上の波が大きくなります。

SNS動画、YouTube運用、広告動画、採用動画、企業紹介動画など、継続的な需要が見込める領域を組み合わせることが重要になると思われます。

小規模クリエイティブ事業者にとっては、代表者の才能を活かしながらも、案件獲得と制作体制を仕組み化することが求められるのではないでしょうか。

6. 今回の教訓

クリエイティブの強みも、継続的に案件化できなければ経営を支えにくい

今回の教訓は、映像制作の実績やディレクション力があっても、それを継続的な案件獲得と収益化につなげられなければ、小規模事業者の経営は安定しにくいという点にあります。

アケロンは、音楽アーティストのプロモーション映像やミュージックビデオなどを手がけていたとされ、過去にはテレビCMなどの制作実績も有していたとの情報があります。

実際に彼らのサイトにはWorkにてそれも掲載されています。

代表を中心としたディレクションを強みにしていたとされることから、クリエイティブ面で一定の評価を得ていた可能性があります。

しかし、小規模事業者の域を脱せず、新規案件の獲得に難航し、収益確保に苦戦していたとされています。

映像制作は、作品ごとの評価が重要な仕事です。

一方で、経営として見ると、単発案件の積み重ねだけでは売上が不安定になりやすい業種でもあります。

ミュージックビデオやプロモーション映像は、案件ごとに予算や制作条件が異なり、受注時期にも波があります。

そのため、制作力に加えて、継続的な営業導線、価格帯別のサービス、月額型の動画運用支援、法人向け映像制作などを組み合わせる必要があったと思われます。

また、代表者のディレクション力が強みであるほど、その強みを個人技で終わらせず、外注チームや制作フロー、営業資料、実績発信として仕組み化することが重要になります。

一言でまとめるなら、クリエイティブの力は大きな武器になりますが、それを継続的な案件獲得と収益の仕組みに変えられなければ、経営を支える力にはなりにくいのではないでしょうか。

投稿者 kato

これはテスト画像ですよ。テストです。

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