小規模老人ホーム運営会社の破産に見る、入居率低下と介護事業の採算難
― ハシモトの事例から考える、住宅型有料老人ホーム・デイサービス・人件費高騰の課題 ―
「群馬」 (株)ハシモト(資本金100万円、富岡市妙義町下高田900-1、登記面=富岡市妙義町下高田1531-4、代表橋本美知子氏)は、7月2日に前橋地裁高崎支部より破産手続き開始決定を受けた。
破産管財人には、門馬義昭弁護士(ぐんま法律事務所、高崎市昭和町224-1、電話027-326-6001)が選任されている。財産状況報告集会期日は10月19日午前11時30分。
当社は、2007年(平成19年)10月に設立。住宅型有料老人ホーム「穂ノ香」(定員13名)とデイサービスセンター「きずな」を運営し、2021年8月期には年収入高約6600万円を計上していた。
しかし、施設の入居率の低下や同業者との競合を背景に、2025年8月期の年収入高は約4800万円にとどまり、赤字決算となっていた。債務超過が続き、厳しい資金繰りを強いられていたうえ、人件費や各種物価の高騰なども重なって支え切れず、2026年4月1日までに事業を停止し、自己破産申請の準備に入っていた。
負債は2025年8月期末時点で約7600万円だが変動している可能性がある。
帝国DBより
1. 経営悪化の背景
1-1. 小規模な住宅型有料老人ホームとデイサービスの運営
同社は、住宅型有料老人ホーム「穂ノ香」とデイサービスセンター「きずな」を運営していたとされています。
住宅型有料老人ホームは、高齢者の住まいを提供する施設であり、必要に応じて外部の介護サービスなどを組み合わせる形で運営されることが多い事業です。
また、デイサービスは、利用者が日中に通所し、食事、入浴、機能訓練、レクリエーションなどのサービスを受ける介護事業です。
高齢化が進む地域では、こうした施設やサービスには一定の社会的需要があります。
特に定員13名の住宅型有料老人ホームであれば、大規模施設とは異なり、家庭的な雰囲気や利用者との距離の近さを打ち出せる可能性があります。
地域密着型の介護施設として、利用者や家族に安心感を提供していた面もあったのではないでしょうか。
一方で、小規模施設は、入居者数や利用者数が少し減るだけでも収入への影響が大きくなります。
定員が限られているため、稼働率を高く維持できなければ、固定費を吸収しにくい構造だったと考えられます。
1-2. 入居率低下による収入減少
同社は、施設の入居率低下を背景に収入が減少していたとされています。
住宅型有料老人ホームでは、入居率が収益に直結します。
定員13名の施設であれば、1名、2名の空室でも売上への影響は小さくありません。
大規模施設であれば、空室が数室出ても全体で吸収できる場合があります。
しかし、小規模施設では、空室率の上昇がそのまま採算悪化につながりやすくなります。
2021年8月期には年収入高約6600万円を計上していたとされていますが、2025年8月期には約4800万円にとどまったとの情報があります。
単純に比較すると、約1800万円の減少です。
小規模介護事業者にとって、この収入減少はかなり大きな影響だった可能性があります。
入居率を維持するには、施設の認知度、医療機関やケアマネジャーとの連携、家族への説明力、サービス内容、料金設定、職員体制などが重要になります。
同業者との競合が強まるなかで、選ばれる理由を明確にする必要があったと思われます。
1-3. 同業者との競合激化
同社は、同業者との競合もあり、収入が減少していたとされています。
介護施設やデイサービスは、地域によっては事業者数が増え、競争が激しくなっている場合があります。
利用者や家族は、料金、立地、医療対応、職員体制、施設の雰囲気、食事、レクリエーション、口コミなどを比較します。
また、病院やケアマネジャーからの紹介を受けるためには、地域の関係機関との信頼関係も重要です。
大手や医療法人系、社会福祉法人系の施設が近隣にある場合、小規模な民間施設は競争上不利になることもあります。
大手は広告力、人材採用力、運営ノウハウ、複数施設での人員融通などを持っています。
小規模施設は、きめ細かな対応や家庭的な雰囲気を強みにできますが、それが十分に伝わらなければ、入居者確保は難しくなります。
1-4. 赤字決算と債務超過の継続
同社は、2025年8月期に赤字決算となり、債務超過が続いていたとされています。
介護事業は、売上が介護報酬や利用料に一定程度制約される一方で、人件費や施設維持費が継続的に発生します。
収入が減少しても、職員配置、夜間対応、食事提供、送迎、施設管理などの費用は簡単には削れません。
そのため、入居率や利用者数が下がると、損益が急速に悪化しやすくなります。
負債は2025年8月期末時点で約7600万円とされていますが、その後変動している可能性があるとの情報もあります。
年収入高約4800万円に対して、負債約7600万円という規模は、小規模介護事業者にとって重い負担だった可能性があります。
赤字が続くなかで借入返済や支払いが重なれば、資金繰りは厳しくなっていったと思われます。
1-5. 人件費と物価高騰の影響
同社は、人件費や各種物価の高騰も重なり、支え切れなくなったとされています。
介護事業では、人件費が大きな割合を占めます。
介護職員、看護職員、生活相談員、送迎スタッフ、調理、清掃など、施設を維持するには一定の人員が必要です。
近年は介護人材の確保が難しく、人件費の上昇も避けにくくなっています。
また、食材費、光熱費、燃料費、衛生用品、介護用品、修繕費なども上がれば、運営コストはさらに増えます。
小規模施設では、コスト上昇分を利用料へすぐに反映することが難しい場合があります。
介護報酬や利用者負担の仕組みがあるため、一般的な小売業のように自由に価格を上げることは簡単ではありません。
収入が減るなかで費用が上がるという二重の負担が、資金繰りをさらに悪化させた可能性があります。
2. 経営上の問題点
2-1. 小規模施設特有の稼働率リスク
同社が運営していた住宅型有料老人ホームは、定員13名とされています。
小規模施設は、利用者との距離が近く、家庭的な運営ができる点では強みがあります。
一方で、定員が少ないため、空室が出たときの影響が大きくなります。
たとえば、定員13名の施設で2名の空室が出ると、稼働率は大きく下がります。
入居者数が減っても、建物維持費、夜間対応、人件費、食事提供、管理費などは大きくは減りません。
そのため、小規模施設ほど満床に近い状態を維持する営業力と紹介ネットワークが重要だったと思われます。
2-2. 介護事業の人件費負担
介護事業では、サービス品質を保つために人員配置が欠かせません。
しかし、人件費が上昇すると、収益を圧迫します。
特に小規模施設では、利用者数が減っても、最低限必要な人員を大きく減らすことは難しくなります。
人員を削りすぎれば、サービス品質や安全性に影響します。
一方で、人員を維持すれば固定費負担が重くなります。
このバランスが、介護事業の難しいところではないでしょうか。
2-3. デイサービスとの相乗効果を維持できたか
同社は、住宅型有料老人ホームとデイサービスセンターを運営していたとされています。
この組み合わせは、本来であれば相乗効果を作りやすい形です。
施設入居者がデイサービスを利用することで、日中の活動、機能訓練、交流、入浴支援などを提供できます。
また、地域の在宅高齢者がデイサービスを利用し、その後施設入居につながる可能性もあります。
しかし、デイサービスも利用者数が安定しなければ採算が厳しくなります。
送迎、職員配置、食事、入浴設備、レクリエーションなどの費用が発生するためです。
住宅型老人ホームとデイサービスの双方で利用者数が減少していた場合、相乗効果よりも固定費負担が重くなっていた可能性があります。
2-4. 競合施設との差別化不足
同業者との競合が背景にあったとされています。
介護施設では、家族やケアマネジャーが比較検討する際に、料金、医療対応、看取り対応、認知症対応、食事、職員の雰囲気、施設の清潔感などが重視されます。
小規模施設は、家庭的な雰囲気や柔軟な対応を強みにしやすい一方で、大手施設のような設備や人員体制、医療連携を打ち出しにくい場合があります。
そのため、どのような利用者に向いた施設なのか、何が他社と違うのかを明確にする必要があります。
競合が増えるなかで、施設の強みが十分に伝わらなければ、入居率の低下につながってしまうと思われます。
2-5. 債務超過状態での再建余力不足
債務超過が続いていたとされています。
債務超過状態になると、新たな投資や人材採用、施設改修、広告宣伝、サービス改善に使える資金が限られます。
介護施設では、施設の老朽化対応や設備修繕、職員確保、利用者獲得のための営業活動が必要になります。
しかし、資金繰りが厳しい状態では、改善に必要な資金を投じにくくなります。
その結果、入居率改善やサービス強化が遅れ、さらに収益が悪化する悪循環に入っていた可能性があります。
3. 経営視点からの考察
今回の事例は、高齢化により介護需要がある地域であっても、小規模施設の経営が必ずしも安定するわけではないことを示していると考えます。
ハシモトは、住宅型有料老人ホーム「穂ノ香」とデイサービスセンター「きずな」を運営していたとされています。
定員13名という規模から、家庭的で利用者との距離が近い施設運営を目指していた可能性があります。
このような小規模施設は、利用者や家族にとって安心感を与える面があります。
一方で、経営面では空室や利用者減少に弱い構造です。
2021年8月期の年収入高約6600万円から、2025年8月期には約4800万円に低下していたとされています。
この減収に加えて、人件費や物価の高騰、債務超過、資金繰り難が重なったことで、事業継続が難しくなった可能性があります。
介護事業は社会的に必要な仕事ですが、運営には人手が必要です。
人件費を抑えすぎればサービス品質に影響し、人件費を維持すれば採算が厳しくなります。
さらに、食材費、光熱費、燃料費、衛生用品などの上昇も避けられません。
小規模介護事業者にとっては、入居率の維持、職員確保、費用管理、地域連携、差別化のすべてが問われます。
今回の事例は、介護需要があるというだけでは経営は成り立たず、稼働率と人件費のバランスを取る仕組みが重要であることを示しているのではないでしょうか。
4. こうすれば良かった可能性がある経営施策
4-1. 入居率維持のための地域連携を強化する
住宅型有料老人ホームでは、入居率の維持が経営の土台になります。
そのため、地域の医療機関、ケアマネジャー、地域包括支援センター、訪問介護事業所、病院の退院支援部門などとの連携を強化する必要があったと考えます。
- 定期的な施設見学会
- ケアマネジャー向け説明資料の整備
- 退院後の受け入れ相談
- 短期利用や体験入居の提案
- 施設の空室情報の定期共有
- 家族向け相談会
小規模施設ほど、地域の紹介ネットワークが入居率を左右しやすいのではないでしょうか。
4-2. 小規模施設ならではの強みを明確にする
大手施設と同じ土俵で競争するのではなく、小規模施設ならではの価値を打ち出す必要があったと思われます。
- 家庭的な雰囲気
- 少人数で目が届きやすい環境
- 利用者一人ひとりに合わせた対応
- 家族との距離の近さ
- 地域密着
- 落ち着いた生活環境
設備や規模では大手に及ばなくても、少人数だからこそできるケアを伝えることが重要だったと考えます。
施設選びでは、料金や設備だけでなく、安心感や職員の雰囲気も重視されます。
その強みを見学、パンフレット、Webサイト、口コミ、紹介先への説明で一貫して伝える必要があったのではないでしょうか。
4-3. デイサービスを施設入居への導線として活用する
同社はデイサービスセンターも運営していたとされています。
デイサービスは、単体の収益事業であると同時に、将来的な施設入居への接点にもなります。
在宅高齢者がデイサービスを利用し、施設や職員に慣れることで、将来的な入居相談につながる可能性があります。
そのため、デイサービス利用者や家族に対して、住宅型有料老人ホームの案内や見学機会を自然に提供する仕組みが重要だったと思われます。
デイサービスと住宅型有料老人ホームの連携を強めることで、利用者獲得の相乗効果を高められた可能性があります。
4-4. 人件費上昇に対応する業務効率化
人件費高騰が重なっていたとされるため、職員の負担を減らしながらサービス品質を維持する工夫が必要だったと考えます。
- 記録業務の簡素化
- シフト管理の見直し
- 送迎ルートの最適化
- 食事提供方法の見直し
- 清掃・洗濯業務の外部委託検討
- 介護ソフトやタブレット活用
介護事業では、人件費を単純に削ることは難しいものです。
そのため、人員を減らすのではなく、職員が本来の介護業務に集中できる体制を作ることが重要だったのではないでしょうか。
4-5. 早期に債務整理と事業規模の見直しを行う
債務超過が続いていたとされる点を考えると、早期に金融機関や専門家と相談し、返済条件の見直しや事業規模の再設計を行う必要があった可能性があります。
負債約7600万円に対して年収入高が約4800万円まで低下していたとされる状況では、通常営業だけでの再建は簡単ではありません。
施設運営を継続するなら、入居率改善策と同時に、返済負担の軽減や固定費削減を進める必要があったと思われます。
資金繰りが限界に近づく前であれば、事業譲渡、施設運営の引き継ぎ、他法人との連携なども検討できたかもしれません。
4-6. 事業譲渡や地域法人との連携を検討する
介護施設は、利用者の生活に直結する事業です。
経営継続が難しくなった場合でも、利用者の受け入れ先やサービス継続を考える必要があります。
同業者、医療法人、社会福祉法人、地域の介護事業者などへの事業譲渡や運営引き継ぎを早期に検討する余地があった可能性があります。
小規模施設であっても、地域の利用者や職員、施設設備には一定の価値があります。
経営が悪化し切る前に、地域内で引き継げる先を探すことも選択肢だったのではないでしょうか。
5. 同業・中小企業への示唆
介護事業は社会的に必要な事業ですが、経営としては決して簡単ではありません。
特に小規模施設では、入居率や利用者数が少し下がるだけで収益が大きく悪化します。
さらに、人件費、食材費、光熱費、介護用品、燃料費などが上昇すれば、採算はさらに厳しくなります。
同業の中小介護事業者にとっては、入居率維持、地域連携、人材確保、業務効率化、固定費管理が重要になります。
また、施設の強みを明確にし、ケアマネジャーや医療機関、家族に伝える営業活動も欠かせません。
介護事業では、良いサービスを提供しているだけでは十分ではなく、その価値を地域に伝え、安定した利用者確保につなげる必要があると思われます。
小規模施設ほど、満床に近い稼働率を維持する仕組みと、職員に無理をかけすぎない運営体制が問われるのではないでしょうか。
6. 今回の教訓
介護需要があっても、入居率と人件費のバランスが崩れれば小規模施設は支えにくい
今回の教訓は、介護需要がある地域であっても、小規模施設では入居率と人件費のバランスが崩れると、経営を維持することが難しくなるという点にあります。
ハシモトは、住宅型有料老人ホーム「穂ノ香」とデイサービスセンター「きずな」を運営していたとされています。
2021年8月期には年収入高約6600万円を計上していたとの情報がありますが、2025年8月期には約4800万円にとどまり、赤字決算となっていたとされています。
施設の入居率低下や同業者との競合に加え、人件費や各種物価の高騰も重なり、資金繰りが厳しくなっていたようです。
介護施設は、地域にとって必要な存在です。
しかし、必要とされる事業であっても、入居者数や利用者数が安定しなければ収入は確保できません。
また、介護は人が支える仕事であるため、人件費を簡単に削ることもできません。
小規模施設では、少人数であることが家庭的なケアにつながる一方で、空室や利用者減少の影響を受けやすくなります。
大手施設や同業者との競合が強まるなかで、地域連携、施設の差別化、デイサービスとの相乗効果、業務効率化を早期に進める必要があったのではないでしょうか。
一言でまとめるなら、介護事業は社会に必要な仕事ですが、入居率の維持と人件費の管理がかみ合わなければ、小規模施設ほど資金繰りを支え切れなくなってしまうと思われます。
