歯科技工所「株式会社 記 」が破産 材料高騰で利益を失う“技術職ビジネス”の厳しい現実

歯科技工所「記」が破産 材料高騰で利益を失う“技術職ビジネス”の厳しい現実

入れ歯・矯正装置などを製作 他事業にも活路を求めるも負債約4500万円

「香川」 (株)記(資本金330万円、登記面=高松市伏石町2014-4、代表小田宏記氏)は、9月10日に高松地裁より破産手続き開始決定を受けた。

破産管財人には、元木将道弁護士(元木・筒井法律事務所、高松市番町4-8-20、電話087-802-2920)が選任されている。財産状況報告集会期日は12月17日午後1時30分。

当社は、2011年(平成23年)9月に設立された歯科技工所。歯科医師や歯科クリニック向けに入れ歯や矯正装置、補てん物、充てん物などの製作および修理、加工を行っていた。

しかし、近年は材料価格の高騰により採算面は低調で、苦しい経営を余儀なくされていた。他事業への取り組みにより業況の回復を図っていたが奏功せず、先行きの見通しが立たないことから事業の継続を断念した。

負債は約4500万円。

帝国DBより

1. 経営悪化の背景

今回のポイントは「仕事がない」ではなく「仕事をしても利益が残らない」

今回の株式会社記の破産で、最も注目したいのが「材料価格の高騰により採算面が低調だった」という点です。

歯科技工所は、歯科医院から依頼を受けて入れ歯、補てん物、矯正装置などを製作する専門性の高い事業です。

そのため、単純に「受注件数を増やせば利益が増える」という業種ではありません。

製作物1件あたりについて、

  • 材料費
  • 歯科技工士の人件費
  • 機械・設備費
  • 電気代
  • 配送費
  • 外注費

などを差し引いた後に、十分な粗利益が残る必要があります。

今回の事例は、受注そのものよりも、

「1件の仕事を完成させた後、会社にいくら利益が残っていたのか」

という問題だった可能性があります。

2. 歯科技工所を直撃する材料価格上昇

金属価格の変動がそのまま原価に跳ね返る

歯科技工では、製作物によって金属、樹脂、セラミックなどさまざまな材料が使用されます。

特に歯科用貴金属は市況の影響を受けやすく、近年は価格変動が非常に大きくなっています。

厚生労働省が公表する歯科用貴金属素材価格の推移を見ると、金素材価格は2022年初には1gあたり約6800円台だったものが、2025年末には2万円を超える水準まで上昇しています。

材料価格がここまで変動すると、従来と同じ価格で仕事を請け負っていては、粗利益率が急速に悪化します。

3. 価格転嫁できなければ「忙しいのに儲からない」

売上高だけを追うと危険

例えば、ある技工物を1万円で納品していたとします。

従来、

  • 材料費 3000円
  • 人件費 3500円
  • その他経費 1500円

で製作できていたなら、2000円程度が利益として残ります。

しかし材料費が4500円になった場合、販売価格を変えなければ利益は500円まで減少します。

仕事量が同じでも利益は4分の1です。

さらに人件費や光熱費まで上昇すれば、1件受注するほど赤字になる可能性もあります。

つまり、

「仕事はある。社員も忙しい。しかし現金が残らない」

という状況が起こります。

4. 歯科技工は「人の時間」が原価になる

製造業でありながら労働集約型でもある

歯科技工所のもう一つの特徴は、人の技術そのものが商品価値になることです。

工場の大量生産品とは異なり、患者ごとに異なる形状に合わせて製作・調整を行う必要があります。

そのため材料費だけでなく、

「歯科技工士が1件完成させるために何時間使ったのか」

という工数管理が重要になります。

例えば5000円の加工料を得る仕事に3時間必要なのであれば、時間単価は約1667円です。

そこから社会保険料や設備費、家賃などを負担すれば、十分な利益が残らない場合があります。

5. 高度な技術が必要でも、高収益とは限らない

「技術力」と「価格決定力」は別

歯科技工は高い専門技能が必要な仕事です。

しかし、高度な技術が必要であることと、高い利益率を確保できることは別問題です。

会社が適切な利益を確保するには、

  • 材料原価
  • 作業時間
  • 設備費
  • 再製作リスク
  • 配送コスト

を含めた価格設定が必要です。

特に材料費だけが大きく上昇した場合、加工技術によって生み出していた利益が材料費に吸収されることになります。

6. 材料価格高騰を借入で補填すると危険

一時的な運転資金なのか、恒常的な赤字資金なのか

材料費が上昇すると、仕入れに必要な運転資金も増えます。

例えば毎月300万円だった材料仕入れが400万円になれば、同じ仕事量でも年間1200万円多く現金が必要になります。

ここで銀行借入を行えば、一時的には資金繰りを維持できます。

しかし販売価格を改定できず、毎月100万円の利益減少が続いているのであれば、借入は問題を解決していません。

単に不足する現金を借入金で補っているだけです。

これは、

「運転資金融資」から「赤字補填融資」へ性質が変わっている状態

です。

7. 銀行から見ると追加融資が難しくなる理由

4500万円という負債額だけでは判断できない

今回の負債総額は約4500万円とされています。

金額だけを見れば、数億円規模の大型倒産ではありません。

しかし企業の借入負担は、負債額そのものでは判断できません。

重要なのは、

「年間でいくら返済できる利益を生み出しているのか」

です。

例えば年間1500万円のキャッシュフローを安定して生み出せる会社なら、4500万円の負債は必ずしも過大とは言えません。

一方、年間300万円しか返済余力がなければ15年分です。

さらに赤字であれば、そもそも通常の返済原資がありません。

材料高によって本業の採算改善が見込めない状況では、金融機関も「追加融資を行えば再建できるのか」を慎重に判断せざるを得ません。

8. 「他事業への取り組み」はなぜうまくいかなかったのか

本業不振時の新規事業には特に注意が必要

今回の記事では、他事業への取り組みによって業況回復を図っていたとされています。

具体的な事業内容は明らかになっていませんが、この部分は経営分析として非常に重要です。

本業が苦しくなると、「新しい事業を始めて売上を増やそう」と考える経営者は少なくありません。

しかし、新規事業には通常、

  • 設備投資
  • 広告宣伝費
  • 人件費
  • 商品開発費
  • 運転資金

が必要です。

つまり、本業が資金を生み出せなくなっている時期ほど、新規事業を立ち上げる余力も少なくなっています。

9. 「本業赤字を別事業で埋める」は難しい

まず既存事業の赤字を止める必要がある

経営再建では、新規事業を始めるよりも先に確認すべきことがあります。

それは、

「現在の本業を黒字化できるのか」

です。

毎月100万円の赤字が出ている会社が、新規事業で毎月30万円の利益を出しても、会社全体では70万円の赤字です。

それどころか、新規事業立ち上げに1000万円を投資すれば、資金繰りはさらに悪化します。

したがって再建では、

  • 不採算業務をやめる
  • 価格を改定する
  • 材料を見直す
  • 工程を効率化する
  • 固定費を削減する

といった既存事業の改善を先に行う必要があります。

10. デジタル化・CAD/CAM投資も万能ではない

設備投資には回収計画が必要

歯科技工業界では、CAD/CAMなどデジタル技術の導入による生産性向上も進んでいます。

ただし、設備を導入すれば自動的に利益が増えるわけではありません。

高額な設備を導入した場合、

  • 設備購入費
  • リース料
  • ソフトウェア利用料
  • 保守費
  • 材料費
  • 教育費

が発生します。

例えば1000万円の設備を導入して年間100万円しか利益が増えないのであれば、単純な投資回収には10年必要です。

技術革新が速い分野では、回収前に設備が陳腐化するリスクもあります。

11. 経営コンサルなら最初に「技工物別採算」を出す

売上ではなく、製品ごとの粗利益を見る

このような歯科技工所を再建するのであれば、まず製作物ごとの採算を調べます。

例えば、

  • 入れ歯
  • クラウン
  • ブリッジ
  • 矯正装置
  • 修理
  • その他補てん物

などに分けて、

  • 平均販売価格
  • 材料費
  • 平均作業時間
  • 外注費
  • 再製作率
  • 粗利益

を計算します。

そこで利益の出ない仕事が分かれば、値上げ、工程改善、受注停止などを検討できます。

12. 顧客別採算も確認する必要がある

売上の大きな歯科医院が優良顧客とは限らない

中小企業では「売上の大きい顧客=重要顧客」と考えがちです。

しかし、例えば大量に発注してくれる歯科医院でも、

  • 単価が低い
  • 短納期を求められる
  • 修正依頼が多い
  • 再製作が多い
  • 配送回数が多い

のであれば、実際には利益がほとんど残っていない可能性があります。

売上上位顧客ではなく、

粗利益上位顧客

を把握することが重要です。

13. 小規模企業ほど「粗利益率の数%」が生死を分ける

材料価格上昇を放置しない

株式会社記の資本金は330万円で、負債は約4500万円です。

こうした規模の中小企業では、粗利益率が数%低下するだけでも年間利益に大きな影響があります。

例えば年間売上5000万円の会社で粗利益率が5ポイント低下すれば、粗利益は250万円減少します。

これが数年間続けば、借入返済や設備更新のための資金は徐々に失われます。

原価上昇を「今だけだろう」と吸収し続けることは、企業体力を少しずつ削ることになります。

14. 今回の倒産から経営者が学ぶべきこと

材料高は売上を増やして解決する問題ではない

今回の事例から最も重要な教訓は、

「原価が上がったときに、売上を増やすだけでは問題を解決できない」

ということです。

原価率の高い仕事を大量に受注すれば、忙しくなるだけで利益が残らない場合があります。

経営者が確認すべきなのは、

  • 1件あたり売価
  • 1件あたり材料費
  • 1件あたり作業時間
  • 粗利益額
  • 粗利益率
  • 値上げ可能額

です。

特に技術職の会社では、「仕事を断らない」「昔からの価格を維持する」といった職人気質が経営上の問題になることがあります。

しかし適正な利益を確保できなければ、従業員の給与を上げることも、新しい設備を導入することもできません。

15. 「値上げしない優しさ」が会社をなくすこともある

価格維持より事業継続が重要

長年取引している顧客に対して値上げを申し出ることは簡単ではありません。

しかし材料費が20%上昇しているのに価格を据え置けば、その20%の一部または全部を自社が負担することになります。

利益がなくなれば、最終的には事業そのものを継続できません

投稿者 kato

これはテスト画像ですよ。テストです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA